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研究会・シンポジウム



語り直される日系アメリカ人の歴史
キクムラ‐ ヤノ、ノムラ研究セミナー参加記
中村 雅子

 近年、抑圧され周縁化されてきた諸集団の過去を修復しアメリカ史の文脈のなかで再構築するうえで、記憶、個人史、パブリックとの関わりに重点を置いた研究が注目されている。日系アメリカ人の歴史も例外ではない。 1999 年9月27 日、こうした動 向を代表する2 人の日系アメリカ人研究者、全米日系人博物館キュレーターのアケミ・キクムラ‐ ヤノ氏とワシントン大学助教授のゲイル・ノムラ氏から、日系人史を修復する近年の試みについて、貴重な話をうかがうことができた。

 ロサンゼルスの全米日系人博物館のキュレーターとして記憶の断片の収集・編集に 携わるキクムラ‐ ヤノ氏は、日系人ひとりひとりの個人史を重視し、その集積から集合的「物語」を再構築する。まず、展示で取り上げる地域が決まると、現地でボランティアを組織し、 写真や生活資料だけでなく日系人の体験や生活を聞き集める。そうして集められた「 日本人」が「日系人」になる「物語」を、歴史的な写真や生活資料、絵画に加え、復元された強制収容所のバラック、コンピューター、子供の視点から語るビデオ等を通じて多様な来館者に向かって多角的に語り直す。このような試みの数々をキクムラ‐ ヤノ氏は多くのスライドを用いて紹介した。

 ノムラ氏は、これまで比較的知られていない中西部に住む日系人の歴史を、一人でも多くの体験に基づき再構築しようと試みてきた。ノムラ氏の講演は、1997 年から実 施されているプロジェクトの経過報告であった。ノムラ氏は、700 人近いアンケート 調 査の統計を基に、彼らが西海岸の日系人とは異なる経験とアイデンティティを持つ 一 方で、西海岸が"home"だという意識を共有していることを強調した。さらに、中西部の日系人の多様性、そして記憶のもつ曖昧さにも触れた。掘り起こされた彼らの記憶は 、今後、研究者だけでなく、CD‐ ROM やインターネットを通じて広く公開される。

 日系人が辿った足跡を記憶を基に再構築する可能性と問題点、そして過去を現在、 未来に結びつける重要性を論じた両氏の講演は、非常に刺激的で意義深いものであっ た。

(なかむら まさこ・津田塾大学院)



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