文部省科学研究費補助金「特定領域研究(B)」



文化融合・接触班 1999年度活動概要・研究会議事録


1999年度活動概要

本年度、文化接触・融合班は2 つの部会に分かれて研究を行なった。(1 )アジア諸国におけるアメリカの文化的影響の歴史的位置付け、(2 )アメリカにおける日本・アジアイメージの変遷(3 )アメリカおよび環太平洋地域におけるジェンダー研究である。

第一部会では恒吉僚子を中心に、能登路雅子、瀧田佳子が加わり、アジアにおける高等教育とアメリカ・モデルとの関係を調査した。また川野美砂子を中心に北タイにおけるアメリカ人宣教師の足跡をチェンマイ、バンコクに赴き現地調査した。第二部会では、廣部泉がハーヴァードに資料調査に赴き、成果を発表し、藤田も日米知的交流の調査をおこなった。第三部会では有賀夏紀と瀧田を中心にアメリカ・太平洋地域におけるジェンダーとエスニシティの研究を開始し、アメリカとの研究ネットワークをアジアに広げる取組みをおこなっている。

1999年度研究会議事録
凡例:1)会議あるいは報告タイトル、2)報告者、3)日時、 4)場所、5)コメンテイターなど、6)会議の概要

第1回

1)アメリカとアジア――文化融合の可能性

2)日比野啓(東京大学助手)川野美砂子(民俗学振興会研究員)

3)1999 年3 月28 日−29 日

4)湘南国際村センター

5)瀧田佳子・能登路雅子・廣部泉・恒吉僚子・藤田文子・日比野啓・川野美砂子

6)概要:

第1 日は川野美砂子が「19 世紀後半から20 世紀前半のタイにおける社会・文化変容」と題する報告を行い、今回当研究班の重要テーマであるタイを取り上げ、アメリカの文化的影響が東南アジアにおいては必ずしも先進国対発展途上国という図式にあわないことが問題提起された。合宿研究会のメリットを活かし、長時間にわたるディスカッションが行われた。2 日目は日比野啓の報告(60 年代以降の日本演劇における「アメリカ」の表象・試論)を聞き、前回の研究会でのアメリカにおける歌舞伎の現状と重ねあわせ、演劇における文化接触研究の方向性を探った。


第2回

1)ハワイにおける女性労働

2)Prof. Beth Bailey (University of New Mexico)

3)1999 年6 月3 日

4)東京大学教養学部附属アメリカ研究資料センター会議室

6)概要:

第二次大戦期のハワイにおける女性の労働研究の第一人者を迎え、日本のアメリカ研究者をまじえての専門者会議をもてたことは当班のジェンダー研究にとって刺激となった。ハワイは太平洋地域における文化接触の場所として今後の研究の必要性を確認した。


第3回

1)アジアの高等教育とアメリカの影響―留学生交流を中心に

2)馬越徹(名古屋大学)

3)1999 年6 月12 日

4)東京大学

6)概要:

馬越教授は、以下の四領域にわたって発表された。1 )アジアの近代大学のルーツと、植民地遺制、戦後のアメリカ・モデルとの関係、2 )アジアの高等教育の拡大を説明する複数のモデルの検討、3 )アジア人留学生とその「アメリカ留学」の意味(例「知」の国際的ネットワークの獲得等)、4 )アジア諸国やその世界的位置付けの変化を反映するアメリカ留学の動向変化(1950 −1990 年代)。

高等教育における諸モデルの中でのアメリカ・モデルのインパクト、高等教育におけるセンターとぺリファリーの問題等の多様な問題と関係しながら、広い視野からの馬越教授の問題提起に、指定時間を越えて活発な質疑応答、討論が行われた。


第4回

1)アジア系アメリカ人研究とジェンダー

2)Prof.Valerie Matsumoto (UCLA)

3)1999 年9 月27 日、30 日、10月5 日

4)東京大学教養学部

6)概要:

アメリカのポピュラー・カルチャ−に囲まれて生きる若い日系アメリカ人の文化的アイデンティティはいかに形成されるか。農村研究からはじめ、強制収容所における日系女性研究、現在は都市部を研究しておられるProf. V.Matsumoto が新聞のコラム等の調査に基く最新研究について報告、班のメンバーとのつっこんだ議論をおこなった。


第5回

1)北タイにおけるアメリカ人宣教師

2)川野美砂子(民俗学振興会研究員)

3)1999 年12 月18 日

4)東京大学教養学部アメリカ研究資料センター

6)概要:

7 月におこなった現地調査をもとにおもにチェンマイにおける宣教師の活動を報告し、従来イギリスの影響のみ論じられてきたこの地域におけるアメリカ研究の可能性をひらいた。