文部省科学研究費補助金「特定領域研究(B)」



情報・社会変動班 1999年度活動概要・研究会議事録


1999年度活動概要

アメリカの情報化について、シリコンバレーから世界に広まりつつある、高度情報企業を中心にした産業の世界戦略とそれが地域社会に及ぼしつつある影響などとともに、CNN などを中心にした、グローバル・ニュースメディアの形成とそれがアジア太平洋諸社会に与えてきている影響などが明らかにされつつある。他方、第二次世界大戦後に日本やフィリピンからアジア全域に広がるとともに、それぞれの社会や文化の反作用を受けて変容してきたアメリカニゼーションの実態とともに、そのうえにかぶせられたグローバル・ニュースメディアやインターネットのなかで形成されてきている個性を持ったさまざまなコミュニティの様子も明らかにされてきている。アジアではとりわけそのなかで、植民地解放で一度進んだ脱英語化の動きが反転し、アメリカ英語とイギリス英語とがミックスした独自な英語に向けての再英語化ともいうべき事態が進んでいる。そうしたことによって、世界システム論やポスト新国際分業論の観点から見たアジア太平洋の位置が中枢・半周縁・周縁構造論の観点からみてどのように変わってきているか、それによってアメリカからみた場合、アジア太平洋の諸社会からみた場合などの、情報・社会空間がそれぞれどのように変貌してきているといえるか、そのなかで人びとはどのようにアイデンティティを再構築あるいは脱構築しつつ生き直そうとしているか、その過程でどのような心理的ドラマ、身体の脱構築すなわち変身や蘇生、あるいはそれらの失敗としてのさまざまな病理などが起こってきているか、をさらに追求していくことがこれからの課題である。

1999年度研究会議事録
凡例:1)会議あるいは報告タイトル、2)報告者、3)日時、 4)場所、5)コメンテイターなど、6)会議の概要

第1回

1)アメリカニズムの変化と不変化:経済リベラリズムと自己正義

2)柏岡富英(京都女子大学)

3)1999 年2 月25日

4)学士会分館

6)概要:

柏岡より、標題について、アメリカ的近代世界の構図、自己正義への執着、経済リベラリズム、佐伯啓思『アメリカニズムの終焉』の意味、Extraterritoriality への反発:ヘルムス=バートン法とダマート法、ハンティントン『文明の衝突』の意味、の順で報告。参考文献:柏岡富英『アメリカの思考回路:実験国家・その純真と不遜』PHP 研究所、1996 年。現代のアメリカニズムをどう理解すべきか、それと「文明の衝突」論はどういう関係にあるか、これからの世界でアメリカニズムの持つ意味、などについて議論。


第2回

1)情報・社会変動の視点からアメリカ・アジア太平洋を見直す

2)庄司興吉(東京大学)

3)1999 年7 月19 日

4)学士会分館

6)概要:

庄司から、標題について、なお世界システム論的視点、情報化を下支えする新々国際分業への視点、情報空間を把握するための空間論的視点、情報化にともなうアイデンティティ問題をとらえる視点、などが必要なことについて問題を提起。議論のうえ、新たなメンバーとして、古城利明、中島康予、山田信行、田中宏、平山満紀の5 氏に参加してもらうことにする。


第3回

1)アメリカ・アジア太平洋《情報・社会変動》への新視点

2)山田信行(帝京大学)、田中宏(東京国際大学)、平山満紀(江戸川大学)

3)1999 年9 月20 日

4)学士会分館

6)概要:

標題をめぐって、山田から「『ポスト新国際分業』と周辺社会の工業化パターンの変化」について、田中から「現代社会と空間編制:グローバルとローカル」について、平山から「情報化とアイデンティティ変容:『人間』の変容」について問題を提起。アメリカ・アジア太平洋の情報・社会変動を把握するために、世界システム論をふまえた周辺社会論、空間編制論、最新のアイデンティティ論などをいかに導入するべきかを論ずる。


第4回

1)アメリカ・アジア太平洋《情報・社会変動》への新視点・続

2)古城利明(中央大学)、中島康予(中央大学)、矢澤修次郎(一橋大学)

3)1999 年10月23 日

4)学士会分館

6)概要:

標題をめぐって、古城から「世界システム、アジア・リージョン、日本社会」について、中島から「現代国家の構造変動と国家論の再審」について、矢澤から「情報社会における階層分化:シリコンバレーの事例」について問題を提起。ウォーラステインの世界システム論を近代以前にまで拡張しようとしつつある最近の議論を生かして、アジアへの新たな視点をいかに形成するか、そのなかでアメリカの影響をどう評価するか、情報化をめぐって新たに展開しつつある国家論を生かして、アメリカ・アジア太平洋関係をどう捉えるか、シリコンバレーで現実に進行しつつある新しい階層分化をどのようにとらえ、どのように意味づけるか、などについて議論。


第5回

1)アメリカ・アジア太平洋《情報・社会変動》の現段階:中間総括

2)矢澤修次郎、菅谷実、吉野耕作、遠藤薫

3)1999 年12 月25 日

4)学士会分館

6)概要:

標題をめぐって、矢澤から「シリコンバレーをつうじて見るアメリカ情報社会の実態」について、菅谷から「グローバル・ニュースメディアとアメリカ・アジア太平洋関係」について、吉野から「アメリカのメディア戦略とアジアにおける受容:CNN International をめぐって」について、遠藤から「アジア太平洋地域におけるインターネット戦略の構図」について、報告。シリコンバレーでは、性差、国境、エスニシティなどあらゆる境界が再編され、デジタル・ディヴァイドによる社会構造の新たな両極分解が起こってきていること、それとは別にアメリカで成長したグローバル・ニュースメディアがアジア太平洋に進出し、ニュース市場を大きく変えてきていること、それにともないアジア太平洋では、植民地解放以後に進んだ脱英語化の動きが揺さぶられ、再英語化の動きが起こってきていること、それらのなかでインターネットがさまざまな形でのコミュニティづくりを推進し、社会の民主化を推進してきていて、それらの動きがアメリカに反射していき、アメリカ・アジア太平洋に今や巨大な情報ネットワーク(社会)が形成されつつあること、などが議論される。