文部省科学研究費補助金「特定領域研究(B)」



経済変動班 1999年度活動概要・研究会議事録


1999年度活動概要

本プロジェクトも2 年目に入り、経済班の6 名に正式メンバーに加えて、内外の研究仲間の協力を得て、順調かつ熱のこもった活動を行っている。まず、昨年5 月末に、国際ポランニ学会で、「パクス・アメリカーナと日本・東アジア経済社会システム」というテーマで2 つのセッションを受け持ち、欧米の経済学・政治学・歴史学・社会学の研究者と学際的で刺激に富む交流を持つことができた。この成果を持ち帰って、国内においても以下に見るような研究会を開催して、本年の国際会議に向けて準備を行っている。

◎1999 年5 月26 〜28 日にフランスのリヨン第2 大学で開催された国際ポランニ学会で、経済変動班は、2 つのJapan Session を担当して、「パクアメリカーナの日本経済社会へのインパクト」についてのこれまでの共同研究の成果を報告した。それぞれの報告の概要はこちら

1999年度研究会議事録
凡例:1)会議あるいは報告タイトル、2)報告者、3)日時、 4)場所、5)コメンテイターなど、6)会議の概要

第1回

1)パクスアメリカーナと東アジアヘのインパクト

2)戸田壮一(神奈川大学)、Jonathan Lewis (東京電機大学)

3)1999 年7 月3 日

4)東京大学社会科学研究所

5)伊藤修、内山昭、王東明、岡田徹太郎、渋谷博史、須藤時仁、添田利光、戸田壮一、根岸毅宏、林健久、福田豊、吉田暁、Jonathan Lewis

6)概要:

[ 1 ] 戸田壮一「香港における銀行危機とセイフティ・ネット」

香港では、1991 年のBCCI 事件発生を受け、預金保険導入の是非が議論されたが、93 年1 月に、コストの割りに実効性が乏しく、ニーズも強くないとして導入しないことが決まった。他のアジア諸国、および欧米の預金保険制度の比較を交えながら、なぜ香港において預金保険制度が導入されなかったのかについて報告。

[ 2 ] Jonathan Lewis 「情報技術に関する日米関係」

Hardware に関わる情報技術は、日米ともに強く、過去にも半導体やスーパーコンピュータの貿易をめぐって摩擦を繰り返したほどであるが、Software については、係争事項にならないほど、日本が弱く、とくに基本ソフト(0S)については、アメリカが圧倒的に強い。この要因について、日本製の0S であるTRON の敗北、漢字などのアジア圏の言語処理(ユニコード化)の問題、国際標準化機構(IS0)におけるアジア各国の立場などを踏まえて、なぜ情報技術に関わるSoftware の分野で、こうした日米の差が生まれたのかについて報告。


第2回

1)財政面での国際化

2)渡瀬義男(国立国会図書館)、樋口均(信州大学)

3)1999 年7 月10 日

4)東京大学社会科学研究所

5)岡田徹太郎、金子憲 参加者:内山昭、岡田徹太郎、岡本英男、加藤栄一、金子憲、渋谷博史、杉本修一、関口智、根岸毅宏、林健久、樋口均、吉田暁、渡瀬義男

6)概要:

[ 1 ] 渡瀬義男「クリントン政権による財政再建と福祉改革」

クリントン政権は、財政赤字を劇的に減少させただけでなく、大幅な黒字に転換させたが、この財政実績を概観し、その上で健全化に貢献した主要政策・立法を吟味し、とりわけ将来的に重要な93 年政府業績成果法と96 年福祉改革法の意味を財政学の立場から検討、報告。

[ 2 ] 樋口均「財政国際化について」

各国が国内体制維持の前提となる世界体制維持のために協力して、全体的ないし国際的に政策展開することから生じる「財政国際化」という現象について、研究史的な考察、および、1970 年代以降、五派にわたる外圧を受けて推進された、日本の財政国際化局面について報告。


第3回

1)米国の機関投資家とコーポレート・ガバナンス/地方分権と自治体 税財源システム

2)三和裕美子(明治大学)、内山昭(静岡県立大学)

3)1999 年11 月13 日

4)東京大学社会科学研究所大会議室

5)三和報告:三谷進、内山報告:樋口均 参加者:安宅川佳之、伊藤修、内山昭、王東明、岡田徹太郎、加藤栄一、斎藤美彦、佐藤隆行、渋谷博史、須藤時仁、関口智、藤堂史明、根岸毅宏、樋口均、広田真人、三谷進、三和裕美子

6)概要:

[ 1 ] 三和裕美子「米国の機関投資家とコーポレート・ガバナンス」

1980 年代後半以降アメリカでは、機関投資家が会社の運営機構に積極的に関与してきた。こうした状況は、一般に機関投資家によるコーポレート・ガバナンスヘの関与といわれるが、本報告では、機関投資家の形成・発展過程を通して、1980 年代半ば以降の株主と経営者の関係を明らかにした。

(三谷コメント)機関投資家の投資行動とコーポレート・ガバナンスの関係を明らかにした本報告の意義を踏まえた上で、三和氏へ3 つの疑問点・問題点が指摘された。
(1 )「支配」と「投資」の意味を歴史的変遷に応じて明らかにして欲しい。
(2 )機関投資家自体へのガバナンス(統治)は、どのようになっていると考えるか。
(3 )三和氏の議論では、節目には、法制度的な要因が入ってきているが、経済構造という内的要因だけではなく、法制度も関係しているといってよいのか。

(三和回答)
(1 )機関投資家の目的(投資の目的)は投資収益をあげることである。この目的自体は歴史的に変化していないが、その実現のための手段が変化している。今までは株式の売却(売買)という行為を背景としていたのに対し、1980 年代後半以降は、株主としての議決権行使(支配)を背景とするようになった。
(2 )投資会社は、それ自体が株式会社であり、一般の株式会社と同じ論理で統治される。年金基金は、エリサ法のもとで、受託者責任(判例も積み上げられている)に応えることで統治される。
(3 )経済的要因と法制度の相互作用で動いていると考えている。


[ 2 ] 内山昭「地方分権と自治体税財源システム」

1980 年代以降の地方分権の論議(特に日本における)を整理したうえで、各議論の成果と問題点について報告。現在の分権論を、経済戦略会議を中心とする「効率重視学派」と神野・金子理論を中心とする「協力・連帯重視学派」に区分し、検討した上で、地方分権の必然性・不可避性と、新しい地方税原則について提案があった。

(樋口コメント)内山氏の地方分権論の整理は、すぐれて明瞭なものであり、その論点も明確にされた。ただ、分権の不可避性というが、これは財政危機による臨調・行革路線の延長、つまり福祉削減にあるといえるのではないか。また、国の現金給付に代わる、多様な現物給付は地方政府にのみなし得るというが、国ではできないという論拠は何か、という問題点の指摘があった。


第4回

1)米中経済摩擦/米国の情報産業

2)[ 1 ] 大橋英夫(専修大学)、[ 2 ] 福田豊(電気通信大学)

3)1999 年12 月18日

4)東京大学社会科学研究所大会議室

5)[ 1 ] 王東明、[ 2 ] ジョナサン・ルイス 参加者:井村進哉、王東明、大橋英夫、岡田徹太郎、加藤栄一、斎藤美彦、渋谷博史、須藤時仁、根岸毅宏、ジョナサン・ルイス

6)概要:

[ 1 ] 大橋英夫「米中経済摩擦:中国経済の国際展開」

香港・台湾の輸出企業の吸収や輸出指向工業化の展開によって国際化を深める中国経済と、戦略的貿易政策の展開から巨大新興市場に関心をもつ米国との経済摩擦について、中国が「非市場経済」であるがゆえに生じる問題などを指摘しつつ、現在の米中経済関係の構図について報告。

(王コメント)
中国は、非市場経済から市場経済への移行期であり、市場開放のスピードと国内企業の競争力上昇がマッチしていないと大きな問題となるのではないか。また国際的な市場ルールに対する考え方が、他の資本主義国と異なることも問題である、とのコメントがあった。

(大橋回答)
競争力と市場開放のスピードについては、自動車やハイテク製品を除けば、問題ない程度まで力をつけてきているのではないか。市場ルールについては、過去の二重為替問題などの例のように、確かに大きな問題を孕んでいると思われる、との回答があった。

[ 2 ] 福田豊「米国の情報産業」

米国の情報産業(IT 産業)の現状について、IT 生産業とIT 多使用産業に分類した上で、情報技術の経済的インパクトについて報告があった。とくに、IT 産業の評価をめぐっては、単なる生産性の問題として考えると見失うものがある、との指摘がなされた。

(ルイス・コメント)
総括的・事実的な報告であり、おおむねコメントの余地はないが、いわゆるネット・バブルについて、これが崩壊すると思うか意見を聞かせて欲しい、など他3点の問題についてコメントがあった。

(福田回答)
赤字を続けていながらも(ネット関連企業の)株が上がるのは、やはりバブルであり、いずれ崩壊すると思われる、との回答があった。(他3 点についても、それぞれ回答がなされた。)