文部省科学研究費補助金「特定領域研究(B)」



政治外交班 1999年度活動概要・研究会議事録


1999年度活動概要

政治外交班は、1980 年代以降、西半球やアジア太平洋地域との連携を深めつつあるアメリカ外交の新潮流を踏まえ、アメリカの太平洋政策を総合的に分析し、21 世紀のアメリカ外交の方向を探ることを目的とする。本研究班においては、アメリカの対アジア太平洋政策を、アメリカ外交の歴史的特質の観点から考察すると同時に、アメリカ政治や社会の内部的要因との連関の視点から分析する。とりわけ現在は、現在共和党が多数を占める議会が、外交に対して大いなる影響力を及ぼしているため、アメリカの内政と外交の連携という研究視角は重要である。本研究班では、アメリカの政治や外交を単に印象論的に追うのでなく、構造的要因に着目して考察していくことにしたい。

1999年度研究会議事録
凡例:1)会議あるいは報告タイトル、2)報告者、3)日時、 4)場所、5)コメンテイターなど、6)会議の概要

第1回

1)共和党多数議会と外交政策

2)久保文明

3)1999 年9 月30 日18 :30-20 :30

4)学士会館分館

5)参加者:五十嵐武士、北岡伸一、木宮正史、酒井哲哉、大津留智恵子、久保元明、湯浅成大、他3名

6)概要:

久保教授は、1994 年以後アメリカ議会においては上下両院とも、共和党議会が多数を占めるようになったが、そのように議会内の政党配置が変化した結果、外交問題においても大きな変化が起こっていると指摘した。とくに下院の多数派が、外交上のいくつかの争点において、民主党のクリントン政権に対して重要な対案を出していることが注目されると久保教授は述べた。たとえば、国連やIMF への協力に対する否定的態度、地球温暖化対策への反対、人工中絶を合法化している国やキリスト教徒を迫害している国への対抗措置(援助停止など)、厳しい対北朝鮮対策要求などである。それに加えて、そこには、単に共和党が増えたとか、保守派(含キリスト教右翼)の影響力が増した以上の変化があった。 久保教授は、その点に関して二つのポイントを指摘した。まず、ダグラス・クープマンの研究を参照しつつ、下院共和党議員のなかで、従来の選挙区サービス志向タイプが減り、政策志向、立法志向、対民主党対決志向のタイプが増加した。その結果、たとえ、イデオロギーや思想的志向性が異なっても、ギングリッチが強力な軍団を形成したように、反民主党の線で政策志向の議員を幅広く結集しえたという。そして、新たなグループの出現という意味では、キリスト教右翼だけでなく、スモールビジネスの集団が政治化して共和党支持にまわったことの重要性を強調した。とくに、後者に関しては、民主党がハイテク産業の組織化を目指しているのに対し、共和党支持に回った自営業者は、よりローカルで、したがって、より素朴単純な主張を外交面で支持する傾向があるという。 このように、政策志向、対決志向というラインでむすびついた、キリスト教右翼とスモールビジネスを核とする新共和党連合が、外交政策にいかなる影響を与えるかということについては、強烈な保守イデオロギーと党派性が前面に押し出され、かつての国際主義的な東部エスタブリッシュメントによる超党派外交的な外交が後退する可能性を、久保教授は指摘した(かつての東部エスタブリッシュメントのような、貴族的共和党議員は減少した)。 質疑応答においては、参加者からギングリッチ派の形成過程をさらに検討する必要性、共和党ばかりでなく民主党においても政党の結束力が強まっている状況があるなどの指摘があった。また、経済保守と社会的保守の連携はどこまで可能か、新共和党連合の外交は孤立的主義的というよりナショナリスティックといったほうがいいのではないかなどについて意見もあり、活発な議論がなされた。アメリカでの在外研究から帰国したばかりの久保教授の報告ということもあって、新鮮な分析が多数あり、有益な知見を得ることができた。