文部省科学研究費補助金「特定領域研究(B)」



総括班 1998年度活動概要・研究会議事録


1998年度活動概要

総括班ではデータ収集小委員会、サーヴァ設置班などを設けて、研究とデータの収集、その整理と公開を公開的に連携できるような体勢づくりを初年度の目標とした。また、12月6日には研究班全体規模での第1回総会を企画運営した他、研究会も下記の通り開催した。

1998年度研究会議事録
凡例:1)会議あるいは報告タイトル、2)報告者、3)日時、 4)場所、5)コメンテイターなど、6)会議の概要

データ収集小委員会第1回

1)データ収集小委員会の発足について

2)油井大三郎(東京大学)

3)98年10月21日

4)東京大学

6)概要:

米国・太平洋地域の関連書籍やデータをなるべく包括的、かつ効率良く収集するために、総括班内にデータ収集小委員会を設置した。委員会の具体的な課題は以下の通りである。

[1]1980年から90年代を中心とする米国・太平洋関係の変遷に関わる図書・資料の収集方針の決定と選定。

[2]1970年代以前の米国・大平洋関係に関わる歴史資料の収集方針の決定と選定。

[3]米国以外の太平洋諸国における太平洋や米国に対する利害関係・認識・イメージなどに関する図書・資料の収集方針の決定と選定。

[4]環太平洋地域における米国研究や太平洋研究のセンターや中心的研究者とのネットワーク形成のための情報収集や連絡調整。

今年度は、10月21日に委員会を開催し、各地域の専門家より、当該科研の趣旨と関連の深いデータ収集の方法について意見交換をした。その結果は、今年度に購入された書籍やマイクロフィルムなどの資料に反映されている(購入書籍・資料リスト参照)。なお、委員会の構成員は以下のとおりである。

米国担当:油井大三郎(東京大学)、遠藤泰夫(東京大学)、矢口祐人(東京大学)、貴堂嘉之(千葉大学)、細野豊樹(共立女子大学)、寺地功次(共立女子大学)、日本:古城佳子(東京大学)、朝鮮:木宮正史(東京大学)、中国:殷燕軍(一橋大学客員研究員)、村田雄二郎(東京大学)、香港:谷垣真理子(東京大学)、台湾:若林正丈(東京大学)、ベトナム:古田元夫(東京大学)、フィリピン:中野聡(神戸大学)、ASEAN:山影進(東京大学)、オセアニア:木畑洋一(東京大学)、中南米:恒川恵一(東京大学)、高橋均(東京大学)、木村秀雄(東京大学)、ロシア:コンスタンチン・サルキソフ(法政大学客員教授)。


データ収集小委員会第2回

1)ロシアのアジア太平洋政策研究の現状

2)サルキソフ コンスタンチン(法政大学客員教授)

3)99年2月3日

4)東京大学

6)概要:

ロシア科学アカデミー東洋学研究所は約600人の専属研究員を抱える、ロシアにおけるアジア研究の中心機関である。総括班では、ロシアのアジア研究の概略を把握するとともに、研究機関に関する情報を得るために、所長顧問を務めるサルキソフ博士を招き、「ロシアのアジア太平洋政策研究の現状」という題目で講演を依頼した。

サルキソフ氏はソ連成立以後、現在までのアジア研究を、スターリン、フルシュチョフ、ブレジネフ、ゴルバチョフ、エリツィン前期と後期時代の6期に分けて説明した。スターリン時代の主な関心は極東地域における国際関係史、帝国主義の糾弾、中華人民共和国誕生の賞賛、アメリカの日本占領と連合軍の対日政策、クリル列島がソ連領となったことを歴史的に裏付ける作業の5点だった。フルシュチョフ時代は反米主義の立場から日本への接近を試みる一方で、国内の「雪解け」に伴い、ある種の国際関係の視野が拡大された時だった。ブレジネフ時代は、フルシュチョフ時代から始まった対中関係の悪化が更に加速し、中国脅威論が唱えられた。中国を包囲するために、「共同安保体制」が構想される一方で、極東問題研究所が設立された。ゴルバチョフ時代になると、中国との関係も修復され、対日政策にも新しい試みがみられた。経済問題を中心に研究する世界経済国際問題研究所アジア太平洋地域研究センターと、中国問題に主な焦点を充てた極東問題研究所アジア太平洋用地域研究センターが設立された。同時に、東洋学研究所に日本研究センターも設立された。エリツィン前期になると、民主主義革命に伴って外交概念は転換期を迎え、民主化と言論の自由により研究が思想的に自由になった。アジア太平洋政策の新しい構想がなされ、日露間関係の重視が計られた。後期になると「国益主義」の外交が構想され、西洋との関係が冷却かする一方、日中との「戦略的パートナーシップ」が模索された。日露接近の結果、領土問題が重要課題として顕在化した。また、中国外交と朝鮮半島の研究が活発に進められている。

ロシアのアジア研究は主に世界経済国際問題研究所(IMEMO)、極東問題研究所、東洋学研究所を中心に進められている。以上の三研究機関に加え、最近は民間の研究グループやシンクタンクが設立されている。また、ハバロフスク、ウラジオストク、ユジノ・サハリンスクなどの極東地域にアジアを重視する研究センターや大学がある。

ロシアの研究所や大学では、近年、海外との共同研究も盛んになってきた。とりわけ、米国のハーバード、プリンストン、サンディエゴ、ワシントン、スタンフォード大学やウィルソンセンターと活発な交流が行われている。また、インターネットを利用した情報公開を通して、研究交流が促進されている。ただし、サイトの多くはロシア語であり、英語の普及は低い。これは、残念ながら出版物に関しても同様である。