文部省科学研究費補助金「特定領域研究(B)」




本研究プロジェクトの参加者の多くが会員となっているアメリカ学会では、近年、国際文化会館との提携の下に、アジア太平洋諸国における米国研究者の国際交流を積極的に推進してきた。たとえば、「冷戦後のアジアと米国」(1993年)、「米国のアジア外交におけるアメリカ的価値」(1994年)、「米国における多文化主義とアジア太平洋地域」(1995年)などのテーマで国際シンポジウムが開催されてきた。また、現在、アジア太平洋諸国には図2のように多数の米国研究機関が設立され、国際シンポジウムなどの形で相互交流が緒につき始めている。それらの国際シンポジウムではアジア太平洋地域における安全保障や文化摩擦などの問題が取り上げられてきたが、今後は、これらの個別分野の成果を相互に関連づけ、アジア太平洋地域協力の進展における米国の役割を多面的に解明する総合的な研究プロジェクトに発展させてゆく必要がある。本プロジェクトはまさにそのような要請に積極的に応えようとするものである。

また、本プロジェクトにおいて計画研究の代表者をつとめる研究者は、その多くが東京大学大学院総合文化研究科附属アメリカ太平洋地域研究センターの運営に関係しているが、このセンターではここ数年、文部省による特別設備費の助成を得て、日米関係を中心とする1次資料や文献を集中的に収集してきており、これらの蓄積をアジア太平洋地域に拡げることにより確実な研究成果が期待できる。

さらに、申請者自身は、これまで日米関係を中心とした米国現代史を専攻してきたが、現在は、アジア系移民の増加によるアメリカ人のアジア観の変容やアジア太平洋地域における異文化接触の問題に関心を持っている。具体的な研究成果としては、1989年に刊行した『未完の占領改革』(東大出版会)の中で、1925年に太平洋地域における学術・文化交流を目的としてハワイで発足し、1950年代末まで米国を中心として活動した「太平洋問題調査会(Institute of Pacific Relations)」が日本の占領改革に及ぼした影響について分析したが、この太平洋問題調査会の軌跡は、戦前・戦後期の太平洋地域における民間レベルの地域協力の先駆的事例であるとともに、その困難さをしめすものでもあった。そして、本書に対しては、毎日新聞社・アジア調査会による1990年度の「アジア太平洋賞特別賞」が与えられたが、全米のアメリカ合衆国史学会の機関紙であるJournal of American History誌の1994年6月号においてMITのジョン・ダワー教授によって詳しく紹介され、高く評価された。また、1995年には『日米・戦争観の相剋』(岩波書店)を出版したが、ここでは、太平洋戦争から湾岸戦争にいたる諸戦争に関する日本と米国の間に見られる認識ギャップの発生原因を両国のナショナリズムの差異などに注目して分析したが、本書は国際関係の文化史的研究という新分野の開拓をめざしたものである。

研究分担者については、業績目録からも明らかな通り、いずれも各分野の第一線で活躍している研究者である。このように文字通り学際的な顔ぶれは、まさに本テーマを総合的に研究するに相応しい陣容と自負しているが、それは、1967年に発足し、本年30周年を迎えた東京大学教養学部付属アメリカ研究資料センターがこれまでに蓄積してきた研究成果に立脚して初めて可能となったものである。また、今回の申請にあたっても、数回の会合を積み重ねて、テーマや役割分担を検討してきた。